北風の忘れもの

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 銀花と暮らし始めて1週間が経つ。一層暖かくなって過ごしやすくなってきた。  チラシに書かれていた短期のアルバイトが、ようやく今日で終わった。 「1週間で6万円…。仕事内容を考えれば、まぁそこそこかな。」 銀花と何か美味しいものでも…と思ったが、銀花はかき氷以外食べない。銀花と一緒に住むと決めたときに生活費がどれくらい増えるのか少し不安だったが、お金の心配はしなくて済みそうなので助かった。 「ただいまー。」  玄関のドアを開けると、銀花が冷蔵庫に頭を突っ込んで仰向けに寝転がっていた。 「ほら、最近暖かくなってきたでしょ?だから、ああしないと辛くなって…。」 銀花は真っ赤になり、目を泳がせながら説明する。頭から文字通り水蒸気が出ているが大丈夫なのだろうか。 「いや、大丈夫だよ…。ちょっとビックリしただけ…プッ」 無理、あの姿を見て笑わないのは。僕の様子を見て銀花は更に真っ赤になり、とうとう膨れはじめた。 「でも…このままじゃマズイね。この冷蔵庫じゃ夏は耐えられないと思う。」 あと、冷蔵庫の中の食材も。  2日後、もともと狭い僕の部屋に大型の業務用冷蔵庫が届いた。アルバイト代を全て使ってしまったが、これからの銀花の快適な生活への投資と考えれば安いと思う。  銀花は目を輝かせながら、冷蔵庫と僕を交互に見る。 「狭いかもしれないけど、暑いときや寝るときに使ってね。」 銀花はそろそろと冷蔵庫の上蓋を開けて、中に入る。その様子は初めてケージの中に入れられたハムスターのようだ。 「ん…。良い感じ。ありがとう、春樹。」 ふわりと笑った銀花があまりに可愛らしくて、思わず顔が熱くなる。  そして、その熱を顔に感じながら、僕は床に崩れ落ちた。
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