北風の忘れもの

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 症状からして、多分少し遅めのインフルエンザ。疲れていたのか、アルバイトでうつされてしまったのか。  銀花が枕元で心配そうに僕を見ている。 「大丈夫。だから僕に触っちゃダメだよ。熱くて溶けちゃうから。」 無理に軽口を叩いてみたが、熱が異常に上がっているような気がする。このままだと本当にやばいかもしれない。 「私のせい…?」 銀花がポツリとつぶやく。銀花を見ると、彼女と目が合った。 「冷蔵庫を買うために無理しちゃったから…?」 泣き出しそうな顔。違うと否定しようとしたとき、急に視界が暗くなった。そして、そのまま意識が遠くなっていった…  ―私のせいだ。私が無理をさせちゃったんだ…。 銀花はうつむく。目の前には、苦しそうな春樹の顔。この熱が異常だということ。そして、このままでは命さえ危険なことは、人ではない銀花でもわかった。  ―春樹を死なせたくない。 そのための方法を銀花は知っていた。雪女は相手の『温度』を奪うことができる。その『温度』の原因もろとも。  ―でも、こんな熱を奪ったら…私が溶けちゃう。 春樹の額に手を置く。ジュッという音とともに、水蒸気が上がる。慌てて手を引く。  ―でも、でも…春樹を死なせたくない! 銀花は春樹へ顔を近づける。 とても優しい人。 いつも笑っている人。 銀花の初恋の人。 銀花はそんな彼に口づけをした。  朝日が眩しい。昨晩の熱が嘘のように引いている。銀花がずっと傍に居てくれた気がするので、そのお蔭かもしれない。 「銀花、ごめんね。心配かけて…」 ベッドから起き上がり、傍らに目を向ける。  そこには、白いワンピースと水溜りだけが残っていた。
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