☆2(1)☆

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 音楽が絶え間なく流れる店内で、僕の足は迷うことなく目的の場所にたどりつく。  そして、手を伸ばした先、見慣れた顔に、一瞬、指が止まる。  まっすぐこちらを見つめる大きな瞳。  ギターのヘッドで半分隠されていても、その顔を見間違えることなんてない。  だけど、その表情は、僕の記憶にあるどれにも当てはまらない。  カツン、と固い感触が指先に触れ、僕はそのまま動けなくなる。 「朋也(ともや)」と呼ぶ小さな声が、僕の頭の中で蘇り、胸の奥をざわつかせる。 「……音葉(おとは)」  僕の口から漏れた呟きは、店内を流れる音楽にかき消される。  僕はまっすぐ手を伸ばしたまま、音葉の顔の並ぶ棚の前でただ静かに立っていることしかできなかった。
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