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人は異常と見るだろうが、いや彼自身が回りから感じていた視線は不快というものよりもむしろ、「好奇」であることは知っている。しかし、この一事だけをのぞけば、彼はごく世話好きの町内の雑事をかたづける「会長さん」にすぎない。そうその行為をのぞいてはごくごく普通の人間なのだ。彼は自分の部屋に入ると戦友会の通知をあらためてみた。差出人は、寺田圧造、そうたしか、同じ日に入営した男だ。冷たい目をした男だった。終戦後は一度も会っていない。過去何回も戦友会の役員をつとめていたが、当日はそのたびに仕事の都合もつけ何回か過去、出席してみたことはある。
しかしいつも彼は地獄をくぐりぬけてきた戦友の中にあってもいつも常に「場ちがい」な感じを持ち、みんなで合唱する軍歌ですらどこか遠いものでも聴くかのように肩を組み合うのであった。
軍隊のことは本間にとってまず、花田隊長が思い出される。この人には何かと良くしてもらった。南方の戦場にあって、彼は陰湿な軍隊とはうらはらに、常に隊の兵一人一人の命を大事にした人だった。幼年学校出の二十歳の美少年だった。終戦の十日前、爆薬に下半身をふきとばされて死んでいる。それでもりりしさののこった顔が、やけつくような日射しの中で輝いていたのを本間ははっきりとして記憶している。
襖がたたかれた。里美だ。この頃にこのノックの音ですら乱暴である。「ああ」と小さく返事をする。
「三村さんがみえましたよ。どうしますか」
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