第1話:飛行夢想の章「誘拐されたら推しと同室」

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 そうしてぼくは卒業を見送り、就活に絞った大学生活五年目を迎えたのだが、就職課で見た面白そうな会社に応募した所トントン拍子に内々定を頂き四月の内に目標を達成してしまったのである。前年度にはなかった会社だから去年の自分を責めるのも不条理だが、それでもタイミングの悪戯じみた悪意を感じずにはいられない。戸惑いの方が強いぼくを余所に、自分の事のように喜んでくれる周りがいるから、余計に心はかき混ぜられる。青汁オ・レでも飲まされているような気分だ。正直虫の居所が悪い。  そんなぼくの胸中を見透かしているのか分からないが、教授は「遊べるうちに遊んどけ。働き出したら最後、遊べる時間は少ないぞ」などと言ってゼミの場で「なにかこいつにいい遊びを教えてやってくれ」まで言う始末。「はああ?」と声に出して戸惑うぼくにゼミの研究生達は風俗・オールナイト映画・キャンプ・天体観測など矢継ぎ早にアイデアをくれるが、ぼくからYesがでることはない。徹夜の経験も無いぼくは、夜更かしが大の苦手なのだ。夜遊びが出来る筈ない。  そんな中ゼミの同級生である公寛(きみひろ)が「"一年限定、アイドルの追っかけ!"なんてどうすかね?」と手を挙げた。アイドル研究会に入っている筋金入りのドルヲタである公寛がデスクの引き出しから本人曰く「布教用」という厳選36人のアイドルのブロマイドをぼくに見せてきて、「どうぞどうぞお選びください」と滅茶苦茶楽しそうなテノールボイスで謳うように差し出した三十六歌仙ならぬ36人のアイドル生写真。その中で一人の女の子にぼくの目は釘付けになった。名前は「黒武藍夏(くろむ あいか)」     
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