バレンタイン

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僕は、浮き足立つ足を必死に地面につけながら家へと帰った。 ドアを開け、乱暴に階段を上がり枕に顔を埋めて叫んだ。 そして、義理チョコを押しのけ僕のカバンから出てきたゆきちゃんのトリュフを口に入れた。 それは甘くて、甘くて、ひたすらに甘くて。ゆきちゃんの思いが痛いくらいに僕に刺さってくるようだった。僕は当然ゆきちゃんの本命であろうトリュフを一瞬で食べ終えた。すでに、ホワイトデーのお返しを考えながら。 その後で、そういえばと、彼女からの手紙に手を伸ばした。 きっと、彼女の思いのたけが詰まった手紙。僕はもし告白なら見るまでもなく付き合うと、心に決めて封をあける。 手紙には予想通り彼女の想いのたけが詰まっていた。 (昨日一日中何を書こうかずっと迷って、なかなか朝までいい言葉が見つかりませんでした。だからストレートに伝えます。私は、入学式であなたを見てからもっと話したいと思いました。他にももっと伝えたい事があります。つまり大好きです。付き合って下さい) そして、最後に、(駿くんへ、ゆきより)と。 僕は、固まった。この手紙を理解するまでに何分かかっただろう。その後で、さっきまで甘かった口なの中が急に、苦くなり、胸焼けがした。 そして、彼女の言葉を、思い出し、理解した。 彼女は、僕から駿にこのトリュフを渡させたかったのだ。 つまり、僕へのチョコかと思ったら…駿へのだった。 浮いた心が東京タワーよりも高いところから落ちてきた。 そして、僕は恥ずかしさと、切なさと、嫉妬で埋め尽くされた。 けれど、あんな風にカッコをつけた以上、渡さなければと涙を拭った。 そして僕は母にトリュフをいますぐ作って欲しいと泣き寝入りした。5個でいいから、と。 母はクラスの女の子みたいに「気持ち悪いよ」と罵声を浴びせた。 それでもと頼み込み、近所のスーパーに材料を買いに走って行った。 さっと同じように、いやそれ以上に彼女の想いが僕の肌をさしてきた。チクチクと痛い。 今日中に駿に渡さなければと。 そして無事、母の手づくりトリュフは駿に渡った。 僕は1人ベッドの上で、トリュフ、美味しかったらいいななんて想いを馳せながら、義理チョコを口に運んだ。 全部、苦い気がした。
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