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今日は待ちに待った金曜日。駅を出て、大通りを突っ切って、裏小路に入ってから、少し歩く。合計で十五分ぐらいかかるだろうか。決して、近くはない。でも、私はいつも遠いとは感じないのだ。
そこに、究極の癒しがあると知っているからだろう。
機械仕掛けのマリア、という看板を見上げて私は思わず微笑んだ。
「伊藤様。お待ちしておりました。いつもご利用ありがとうございます」
店の中からスーツ姿の青年が出てきて、隙のない接客をする。すっかり私も常連になってしまった。
「今日もご予約ありがとうございます。どうぞ、中へ」
導かれるがままに、私は店内へと入っていった。
私の予約している部屋は、一番奥にある。だから廊下を通っている時、窓から他のお客さんの様子が少し見える。プライバシー的に見えない方がいいんじゃないかと思うけど、この店の方針なんだろう。店員さんが時々見回っているのかもしれない。
私は好奇心に負けて、ちらりと他の人の様子を見てしまう。
女子高生とおしゃべりをしているおじさん。息子ほど若い男の子にべたべたするおばさん。ロマンスグレーのおじいさんに、寄りかかる若い女の子。大学生カップルにしか見えない、客とスタッフ。
「さあ、二時間お楽しみください」
いつの間にか、目的の部屋の前に着いていた。
店員さんにドアを開けてもらって、私は中に入る。
すると、中にいた少年が顔をあげた。
「綾さん!」
快活に笑うこの少年は、アンドロイドだった。
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