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目覚めると独りだった。
障子が朝日を越して金色に輝いて見える。
清様のベッドで気を失うように寝たらしく、前後の記憶は無い。
だらりと垂れ下がった俺の股間は何も反応せず、昨晩の激しさを物語っていた。身体の節々が軋むように痛い。初めての性交は、激しく溺れるような悦楽を強烈に教えてくれたが、愛しさと共に儚く散ってしまった。
この部屋に清様の姿はない。
よろよろと立ち上がり、脱ぎ捨てた服を身に纏った。身体のあちこちに清様の匂いが染み付いていて涙が止まらなくなる。
変わらない日々が続くはずだったのに、自らの手で離してしまった。愛しいお方はもういない。幸せの残像を朧気に目で追った。
「う……うぅ……う……」
抑えても抑えても嗚咽と共に頬が濡れる。昨晩から一生分ぐらい泣いただろうか。さっきまで清様が隣で寝ていただろう寝具の窪みに涙が染みた。
暴れだして大声を上げたい衝動をぐっと飲み込み、握る拳に力を込める。
想いは後から後から溢れ出て俺を引き止めようとする。身を裂く孤独で頭がどうにかなりそうだった。
花のように笑うあの笑顔に会いたい。俺は全身全霊で清様を求めていた。
それから後のことはよく覚えてない。
少しばかりの餞別と給金を持ち、荷馬車を乗り継いで汽車の駅へと向かった。
車窓から流れる景色を眺めそっと目を閉じる。本当は直接伝えたかった言葉を小さい声で呟いた。汽車が出す轟音で誰にも聞こえやしないだろう。
『貴方のいない世界は色が無いけれでも、いつか再会できるかもしれないと言いましたね。
確証はなくても信じて待ちます。
会いたい。会ってまた貴方に触れたい。
せめて、せめて、貴方の進む道が光に溢れるものになりますように。
愛を込めて、心からお祈り申し上げます』
若葉の香りが俺を優しく包み、季節は夏を告げようとしていた。
夢のような愛しい時間は戻ってこない。
【END】
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