想うは君の面影

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お前は、俺と違って自由の身だ。どこにだって行けるんだよ。拘る家もない。羨ましいよ」 「清様………」 「俺は籠の鳥だ。自由なことは何も出来ない。雄一郎も分かっておるだろう。兄上達は父上の会社経営の重役を担っている。他の兄弟も皆、ゆくゆくは父を支えるのだ。俺だけがつまらない屋敷で過ぎ行く日々を消化してるだけとは思わぬか」 貴方さえ居れば私は何もいらないと、俺みたいな使用人には口にできる訳がない。浅ましいと罵られて当然だ。身分が違いすぎる。 清様がおっしゃる『自由』には如何程の価値があるのか、俺に分からなかった。 「思いません。そんな、悲しいことを言わないでください…………」 泣きそうになり、俺が顔を歪めると、清様は少しだけ笑顔を見せた。 「雄一郎、すまんのう。この日差しに当てられておると、外へ行きたくなるのだ。一体外の世界は何があるか、:蛙(かわず)は大海を知りたいのじゃ」 「………清様が蛙ですか……ふふふ……」 「なんだ。俺が蛙で何が悪い」 清蛙も悪くない。 2人で笑うと曇った心が春空に溶けていく気がした。 事実、清様は籠の鳥だった。旦那様は22歳になる清様を未だに外へ出そうとしない。兄弟でお独りだけ、いつまでも療養という形で屋敷に留まっていた。 閉じ込めておくほど、鳥は足掻くもので、静かに歪みが生まれていることに誰もが気付かぬふりをしていた。
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