想うは君の面影

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それは半年ほど前の入浴時だった。 伊集院家には大きな風呂場があり、それに伴う風呂番が数名いる。 清様のいらっしゃる離れにも専用の風呂場が存在し、入浴の介助も俺の役目だった。 髪を拭いたり背中を流すくらいで、あまり呼ばれることはなく入口で控えることが多かった。 その日は、珍しく清様から髪を洗ってくれと頼まれて浴室へ入った。檜の香りがする浴槽は清潔で、ふんだんに湯が張ってある。世の中にはこんな立派な風呂が存在するんだと初めて見た時は感嘆の声が漏れた。 西洋から取り寄せた液体の石鹸を泡立てて髪を洗う。風呂椅子に座る清様は華奢だ。傾きかけた日差しが入るなかで、裸体が白く浮かび上がるように輝いて見えた。ちょこんと乗った柔らかそうな小さなお尻に生唾を飲んだ時だった。 左背中の肩甲骨辺りに紅い痣を見つけたのだ。降り積もった白い雪に散った血液みたいなそれは、肩や背中に複数箇所確認できた。 虫に刺されたかと思えば違う。明らかに内出血の跡だ。
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