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プロローグ
幼い頃から同じ夢を見る。夢の中の僕は、まだ十歳にも満たないような小さな子供で、酷く痩せ細っていた。
ここは何処だろう。何処かの海?
灰色の雲から覗く月が、海面をきらきらと照らしている。
夜の海は泥のように黒くて、何か得体の知れない生き物のように見えた。けれど不思議と怖いという気持ちはなかった。それは多分、あの子が傍にいるからだろう。
「痛かったよね。気付いてあげられなくてごめんね」
すすり泣く声を掻き消すように、打ち寄せる波の音が響く。
僕は浜辺に座っていて、大人の腰にも届かないような女の子と肩を寄せ合っている。あの子の瞳からは、真珠のような涙がぽろぽろと零れていた。
彼女の横顔は、あどけなく、丸みを帯びている。特別整っているわけではないけれど、潤んだ赤色の瞳が宝石のようにきらきらと輝いていて、幼いながらに綺麗だと思った。
「どうしてお母さんは、こんな酷いことをするの?」
「僕が嫌いだからだよ」
「どうして?血が繋がってるのに」
「分からないよ。…考えたくもないんだ」
理由は知っている。散々聞かされたから。でも認めたくない。認めようとするだけで、怒りにも似た感情に押しつぶされそうになる。
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