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「――ううん、別に」
かれんは昴に、自分の心とは真逆の返事をした。
「そう。――じゃあ、行こうか? お腹空いたよね?」
「うん」
かれんは車を発進させながら、さっき昴が莉子に言った言葉を思い出していた。
(――人は自分の都合の良いように物事を捕えてしまうから、莉子ちゃんが黙ったままだと、莉子ちゃんが考えていることとはまったく違う意味で物事を捕えてしまうかもしれない)
まさに今の自分がこの言葉に当てはまるんだ、とかれんは思った。
自分は「東京時代の子」が気になる。でも、気になると言えなかった。
そして、昴は「かれんちゃんは『東京時代の子』に興味がないんだな」と思って、別の話をし始めたのだ。
別に昴が「自分の都合の良いように」考えているというわけではないのだろうが、「ううん、別に」と答えられれば、普通は興味がないと考えるだろう。
(――でも、訊けない)
昴の「東京時代の子」がどういう人物なのか訊けない、とかれんは思った。
だって、昴に「もう、ガマンできない」と書いたポストカードを送ってくるような「子」だ。
(――訊けなくて、仕方ないよ)
かれんはそう自分に言い聞かせながら、車を走らせ続けた。
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