55人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
むしろ、学生時代やフリーター時代に家庭教師のバイトをしていたことがある昴の方が、よっぽど人に教えたり人の上に立ったりするのが得意なのだ。
だと言うのに、いつも誰かの指導や学級委員のような人の上に立つ役割は、かれんの方に回って来る。
まあ、あの「いつでもどこでもマイペース」な昴に頼まない人の気持ちもわからなくもないが……。
かれんも最初は断ろうとも思うのだが、せっかく自分を頼って来たのに断るのは悪いと思ってしまい、つい引き受けてしまう。
その度にかれんは緊張したり、「こんな感じで良いんだろうか?」と手探り状態で、いつもの努力と頑張りでやってみるのだが、大抵は「加賀谷さん、さすがですね!」と手放しで褒められる。
(――「さすがですね」って、私、そんなにすごくないのに)
自分は何とか努力して頑張って、やっとできるのだ。
あの、何でも「サクッ」と出来る昴に比べれば、全然すごくない……。
「――加賀谷先輩、どうしたんですか?」
真人に不思議そうに話しかけられて、かれんはハッと我に返った。
「ううん、何でもない。――じゃあ、会社戻ろうか? 私、今日も早めに帰らないといけないし」
かれんは誤魔化すように真人の方を向いて笑顔を見せたが、ふと真人の肩ごしの向こうにいる女の子が目に留まった。
あの女の子、この間も見たことがある、とかれんは思った。
最初のコメントを投稿しよう!