3.カーネーション(Carnation / The Jam)

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3.カーネーション(Carnation / The Jam)

「――ただいま」  土曜日の午後、かれんが久しぶりに実家の玄関に入ると、母親の明奈(あきな)が笑顔で迎えてくれた。 「お帰り、久しぶり。仕事どう?」 「まあ、相変わらず。でも、最近は早く帰れてるけど」 「そう。で、あっちの部屋、どうなの?」 「まあまあかな?」  かれんは玄関の小上がりに座って靴を脱ぎながら、やっぱり実家は落ち着くなと思っていた。  かれんが今住んでいるところに引っ越して一年も経たない。  まあ、今住んでいる部屋も良いことは良いけど、小さい頃からずっと住んでいた実家の「ホッとする感じ」には敵わない。 「良かった。これでもちょっとは心配してんのよ。あんた、小さい頃から何でも出来る子どもだったけど、ムリしすぎるところがあるから」  かれんは思わず母親の方をジッと見つめた。  母親がこんな感傷的なことを言うのは意外だ。  母親はかれんと違って、昔から少し抜けているところがある女性だった。  俗に言う「天然」とか「不思議ちゃん」とまで言われるほどでもないが、独特の雰囲気を持っていて、おっとりとした性格だった。  性格だけ見れば、どちらかというと昴の母親なのではないかと思ってしまうほどマイペースな女性だ。  かれんが昔から必死に頑張っていても、よいとも悪いとも言わず、ニコニコしながら見守っていたところがある。  かれんはそんな、ただ見守って好きにやらしてくれる母親を少し頼りなく思っていた反面、好きにやらせてくれたことには感謝していた。  でも、この「あんた、小さい頃から何でも出来る子どもだったけど、ムリしすぎるところがあるから」という発言を聞く限り、母親は何も考えずに娘のかれんのことを見守っていたわけではなかった、ということなのだろうか……。
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