無邪気と球根

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   彼が通された板張りの居間には、寒さ避けの為かゴザやら綿入れやらが散乱している一方で、隅には生糸の束や織られた布が整然と積まれ寄せられていた。適当な場所に荷物を降ろし、まずは奥の一段高くなった所に祀られた守り神様の像――細工をした木材の胴体に布を幾重も着せた、二体一対の人形――に手を合わせる。振り返ると囲炉裏で炭がチロチロと燃えており、手をかざせば冷え切った身体に温もりがじわりと沁み込んだ。 「冬の準備が出来て無いうちにあの雪だろ?参っちまあハア」  かんじきを編み付けた特製の藁沓を脱ぎながら祖母は盛大に溜息をつき、内履き用の藁靴ともんぺに履き替え土間へと上がる。囲炉裏を挟んで二人は向かい合う形になり、暫くは互いの近況など取り留めのない話をしていたがそれもだんだん下火になってくる。ちょうど良い頃合いだと、彼は居住まいを正してから口火を切った。  
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