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「…………和泉さん……?」
「……戸塚、だろう、おまえ……」
「え、はい、戸塚ですけれど」
混乱しすぎて、自分でも訳の分からないことを言っている自信がある。
あの、人を見下すのが何よりも好きですといった顔をしている和泉が、なぜ、床に這いつくばっているのか。息の荒い和泉の頬に唾液が伝い、床にポタリと落ちた。
「あー、くそ……あの野郎……」
「和泉さん、大丈夫ですか」
「大丈夫に見えるか。ちょっと黙ってろ、すぐ収まる……」
和泉はやけに苦しそうだった。先程の状況から判断するに、サブドロップ状態か。28年生きてきて、初めて見たかもしれない。
「戸塚くん」
「はい」
「ここに」
さっきまでの「戸塚」呼びはなんだったんだと思いつつ、戸塚は言われた通り近づいた。変な薬か何か刺されて記憶でも消されるのだろうか。この人ならやりかねない。
「…………手を」
「て?」
頭いっぱいにはてなを詰めたまま、戸塚は左手を突き出した。やはり注射針でも射されるのかと覚悟を決めた時、和泉の右手が、するりと戸塚の中指を撫でた。そのまま、ゆっくりと和泉の頬が手のひらに付けられる。眼鏡がひやりとした。
「……とつか……」
ゾクリとした。
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