彼女の物語

2/6
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 窓側の席に座り、カバンから赤本と数学の問題集を出す。  ふと窓の向こうを見る。  落葉樹には雪が積もり、ついこの間まで落ち葉で敷き詰められていた中庭は今は白く雪で覆われている。  見ているだけで、その白さに吸い込まれそうになる。  心の中でモヤモヤとしているものがすべて動きを止めて、私は無の世界に陥る。    ふいに、落葉樹の枝が揺れたと思うと、重く積もった雪が大きな音を立てて地面に落ちた。  その音で私はハッと現実に返る。小刻みに揺れ続ける木の枝を見ながら「外を見ている場合じゃない」と私はシャープペンを手に取った。  図形の問題に取り掛かる。円に内接する四角形から円の外へと線が伸びて、別の三角形を作っている。それぐらいはわかる。  ただし、問題の解き方が全く思いつかない。  とりあえず、角度や長さなどわかるところを書き込んでいく。わかるところを埋めていけば解き方が思いつくかもしれないと、あまり成功したことのない願いに賭ける。  何分かの時間を掛けても、問題で問われている線ABの長さを求めることができない。私は大きくため息をつく。  巻末の解答を読んでみたものの省略されすぎていて要領を得ない。こんな少しの解説で誰がわかるというんだろう。  こんな問題も優斗なら解いてしまうんだろうか。  隣に優斗が座っていればなぁ、といない彼を思いながら、私は椅子の背もたれにもたれ、天井を見上げた。  もう一度、ため息をついてから、机に向き直った。そして、カバンから携帯電話を取り出し、LINEを起動する。 『数学でどうしてもわからない問題があるんだ。力を貸してほしい』  そう入力してから優斗に向けて送信する。  しばらく画面を眺めていたが、すぐに「既読」の表示がつくことはなかった。すぐに返信を貰えることを期待したわけではないが、実際に「既読」表示が付かないとそれはそれで寂しい。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!