彼女の物語

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 試験会場を出ると、雪は止んでいた。  冬の陽射しを受けるキャンパスを受験生たちが歩く。  少し前を髪の長い女子が歩いていた。  彼女は、大きめのショルダーバッグから何かを探しているらしく、バッグに右手を入れてゴソゴソしながら歩いていた。  そういえば、あの子は時間ギリギリで私の隣に座った子だ。  何かを取り出した彼女の手元からスルリと、何かが舞った。小さな紙切れのような何かだった。  空中を舞ったそれは二度旋回して、私の正面に飛んで来た。あまり球技が得意ではない私だったが、偶然にも手を合わせる形でキャッチすることが出来た。  彼女は振り返り、私のもとへ歩み寄る。 「すいません。ありがとうございます」  綺麗な子だなと思った。  私はの両手に収まったものを見てみると、それは新幹線のチケットだとわかった。行き先をチラッと見ると、私と同じ目的地だった。 「いえ。偶然キャッチできました。勝手に切符見ちゃいましたけど……、私と同じ地元なんですね」  私から見ず知らずの人に話しかけることはあまりない。しかし、遠く離れた横浜で、同じ地元で、同じ大学を受けたことに何か縁を感じて話しかけてみた。 「え? そうなんですか。横浜で地元が同じ人に会えるとは思わなかったな。どこ高ですか?」  チケットを受け取った彼女が目を輝かせる。 「青城南です」  私が自分の高校名を答えた。 「わ、頭いいんですね。ウチの中学からも何人か行ってますよ」 「じゃ、お互い知ってる人とかいるかもですね」  それから同じ地元つながりということで彼女と私は一緒に東京駅まで向かった。  私と同じ部活の絢香と彼女は中学時代、仲が良かったらしく、絢香の話で盛り上がった。   もっといろいろ話してみたかったが残念ながら乗る新幹線は一本違っていた。私が先だったので、改札口前で別れることになった。  私は、ここでお別れになるのはもったいないと思った。 「あの……、せっかくだし、名前を教えてもらってもいいかな?」  彼女は「あ、そういえば名前知らずに会話してたんだっけ」と舌を出してから、名前を教えてくれた。 「私、佐々木美優って言います」  佐々木美優。彼女が名乗ったその名前は、私の胸の中にスッと入ってくるような気がした。  妙な親近感みたいなものを感じた。地元が一緒だからだろうか。  なぜだかわからないけれど、この子とは仲良くなれるような気がした。春から一緒の大学に通えたらいいな、そんなことを思いながら私は改札口を抜けた。
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