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「私立が終わったし、あとは国立だけだね」
美優の言葉に僕は頷く。
「もうすぐ夢の東京生活だよ」
美優は子供の頃のように目を輝かせていた。
「夢の……って大袈裟だな」
「いやいや夢のようだよ? 東京に四日いたけどさ、二月に四日間もいて一度も雪を見なかったんだよ? こんな素敵なことある?」
僕と美優は幼馴染だ。小さい頃から美優はさんざん「雪は嫌だ」「雪だから外に出たくない」「早く雪が消えればいいのに」と雪を嫌っている。
東京だって雪が降る時はあるのだけど、まぁ僕らの地元よりは少ないんだろう。
「あー、早く一人暮らししたい。やりたいこと、行きたいとこいっぱいだよ」
彼女は無邪気な笑顔を浮かべていた。すごくいい顔だった。
春からの日々が本当に楽しみなんだろう。
二月が終わればあっという間に春になる。
妄想好きな彼女は、まだ合格発表もないのに、春からの日々を思い描いているんだろう。
その描く未来に、僕が少しでも存在しているだろうか、たとえ朝起こすだけの役目だとしても。
そんなことを思っている間も新幹線は進んだ。
いつのまにか、窓の向こうの景色は、彼女の嫌いな雪の景色になっていた。僕らの育った町までもうすぐだ。
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