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彼女の物語
先週まで、東京で私立大を受けていた。慣れないホテル暮らしで少し疲れているような気もするが、国立大の二次試験まであと二週間。
疲れているからダラダラしているわけにはいかない。
二月に入ってから、もう学校での授業はなかった。推薦や就職などが決まっている生徒は、もう卒業式まで学校に来ることはない。
まだ受験が残る私のような生徒は自宅学習でよいのだが、私は自宅で勉強していても何となく気が散ってしまう。
そのため、よっぽど悪天候でもない限りは、日中は市立図書館で勉強することにしていた。
電車に二十分ほど揺られて、駅から十分ほど歩いて図書館へやってきた。
綺麗に雪かきされた正面口を通り、図書館に入る。
冷たい空気に晒されていた私の顔が溶けるかのように図書館の暖かい空気が私を包む。寒いところから帰って来た時の特権を味わえているような気がする。
少し薄暗い廊下を抜けて、一番広い部屋に入る。
静かな空間の中で、それとなく辺りを見渡す。こんな雪の季節に昼間から利用する人は少なく、比較的空いている。
受験生らしい姿があちらこちらにあって、赤本がそれを示している。この時期になると基礎力を高めるより、志望校の過去問対策をする方が合格率が上がるからだ。
どうやら優斗は来ていないみたいだ。
待ち合わせしているわけでもないので、別によいのだけど。
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