遮断した世界

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遮断した世界

ここは雨の国。 青空は生まれて一度も見たことがない。 今日も学校、傘をさして登校。 イヤホンをして、世界を遮断。 傘は好きだ。 僕の顔を隠してくれる。 音楽も好きだ。 現実を忘れさせてくれる。 ウォークマンの中には、君の歌が入っている。 君が僕にくれた唯一のものだ。 1番から5番までをループするのが好き。 その中には君がみんなに宛てたインスト曲が入っている。 ラストの歌はアカペラらしいが、ひとりで聴いてと言われて、今も聴けずにいる。 それがポジティブでもネガティブでも、踏み込めずにいる。 君は今、難病と戦っている。 ガラス越しの君は、唇だけを動かして、なにか伝えたがっている。 だけど、君に無理はさせられなくて、お医者さんからも止められている。 届きそうで届かない。無力な自分が嫌いだ。 でも、ずっと逃げ続けることはできない。 君の手術が決まり、僕は決めた。 成功を祈り、聴いたよって言うために。 病院の屋上にフラッと来た僕は、入り口のドアに背をおき、ズルズルと座りこんだ。 カチッと勇気を出して、スタートボタン。 『キミが私にしてくれた。すべてのことが尊くて』 『なにも出来ない私のこと。諦めないでいてくれる』 『ありがとう、ありがとう』     
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