<第17章>決意

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<第17章>決意

「まゆこ、どないしたんか?」 久々の再会で、別人のようになって帰ってきたまゆこを、 兄は目を丸くしながら出迎えた。 「女優みたいやないか!」 「新喜劇の、やろ?」 ついつい茶化してしまうのは、彼女の悪い癖だった。 照れたように言うまゆこを、 兄はまじまじと見つめた。 「こりゃ、岡田くんも惚れるんと違うか?」 まゆこが赤くなる。 「まさか!」 言いながら大笑いした。 いくらなんでも誉めすぎである。 ひとしきり笑ったあとで、まゆこは打ち明けた。 「兄ちゃん、うち手術する事にしたわ。」 「・・・そうか。」 彼は頷いた。 「病院には誰も入れんと、 岡田くんに頑張ってもらうことにするから。 しっかり治して戻ってこいよ。」 「え?」 まゆこが聞き返した。 「人、入れへんの?」 「当たり前や。たかだか一月やろ? 岡田くんも一人前やし もうまゆこの仕事かて出来るやろ。 彼もいつかは独立したいようだし、 それなら知っとかなあかんことは、山ほどあるからな。」 「それも、そうか。」 彼女は納得した。 「それにあいつ、俺に “いつかはまゆこさんと仕事したいです” って言ってきよったからな。」 「へ?」 そう言えば、むかし彼に そんなことを言われたことがあったのを、 彼女は思い出した。 酔った上の戯れ言かと思っていたけど 兄に言うのなら、本気なのかもしれない。 今まで、冗談のように 口説かれていたことを思い出して 急にまゆこはドキドキしてきた。 “あれも、本気なのかも? いや、まさかね。“ 「まゆこと仕事をしたいなら、 俺はただの事務員で雇う気なら、許さへんでと言ってるからな。」 「へ?」 兄がニヤリと笑う。 「まゆこと仕事したいなら、 “院長夫人”としてやないとあかんってな。」 彼女は真っ赤になった。 「何てこと、言ってくれたん!」 抗議するが、兄は笑うばかりだった。 岡田君の奥さん? 何を寝ぼけたことを言っているのか? 「夫人やなくてもええのに。」 彼の側にいて、 そっと支えながら仕事ができたら まゆこはそれで満足だった。 ボソボソと呟くまゆこを、 兄は優しい目で見つめていた。
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