<第3章>心に刺さるとげ

1/3
前へ
/31ページ
次へ

<第3章>心に刺さるとげ

ある日病院に電話がかかってきた。 「音成動物病院です。」 まゆこが電話に出ると 若い女の声で 「岡田タクトの妹のキョウコと申します。兄は居りますか?」 と言われた。 岡田に電話を代わると、まゆこは気持ち離れて仕事をしていた。 身内からだし、プライベートである。 知られたくない部分も あるだろうからとの配慮だが、 狭い病院なので、 二人の会話は聞こえるともなしに、聞こえていた。 「あ?さっきの女の人? ああ、事務のおばちゃんだよ。全然若くないから。」 「!?」 まゆこは良く声を誉められる。 動物病院で電話に出るとき、 勝手に“若くて可愛い女の子”だと 勘違いされることが良くあった。 特に若い男の飼い主からは 「先ほどのお電話に出られた方は?」 と、尋ねられることが多く、 「私ですが?」と言うと、 ため息をつかれることがしばしばあった。 地味に傷つくのだ。 顔と声が合ってないとは良く言われるが、 酒でも飲んで声を潰そうか?と思うくらい 彼女にとっては嫌なことだった。 『あーあ、また言われてる。』 ため息を付いて、そっと岡田の方を見る。 彼は一瞬まゆこと目を合わせた後で 目をそらして電話を切った。 「まゆこさん?ため息をついたら     
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加