<第4章>泣き言

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<第4章>泣き言

まゆこは元々母と兄夫婦と同居していた。 自宅は病院の隣にある。 兄夫婦が病院を切り盛りしており、 まゆこは実家で家事手伝いをしていたが、 義姉が10年前に亡くなったあとは 家事のほかに、病院の仕事を任せられるようになっていた。 もともと父が亡くなった後 (彼はまゆこが小学生の時に、急死していた。) 兄を手伝いたい一心で、獣医の学校へ行ったまゆこは 動物が大好きである。 彼女は人付き合いが下手だけど、 技術の高さで患者の信頼を得ていた。 内にこもる性格のせいで 外に働きに出ることが困難だったが、 動物病院の仕事は、彼女に合っていたようだ。 だが、今さらになって他人がこの環境に 入り込んでくるとは思ってもみなかった。 岡田は少し癖のある性格だし、内々では口も悪いが 来院する患者たちに対しては、 当たりもよく、客からの信頼も篤い。 自分なんか居なくてもいいんじゃないか? まゆこは薄々そう感じていた。 岡田と言いあった日の夜、 彼女は兄に「話があるんやけど。」と言った。 「なんや?」 「うち、病院の仕事を辞めようと思うんやけど。」 兄はしばらく黙ってから、口を開いた。 「辞めてどないすんねん?」 「ほかの仕事を探す。」 まゆこが言うと     
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