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<第20章>ジェラシー
「これ、患者さんからの差し入れ。」
タクトがまゆこにチーズケーキの包みを渡すと、
彼女は「ありがとう」と受け取った。
黙って彼女を見つめていると、
「どうしたん?」と聞かれる。
タクトは彼女を見られずに、目をそらした。
「何か嫌な事でもあったんか?」
優しく尋ねられて、
すねていた自分が恥ずかしくなる。
「ごめん、さっきの先生と楽しそうに話してたから
少し妬いてしまった。」
正直に言うと、
まゆこが赤くなった。
「ヤキモチ、妬いてくれたん?」
うふふ、と笑う。
とても嬉しそうな顔だった。
「あのね、さっきの先生
うちの高校の同級生やったんよ。
懐かしくてしゃべってたん。それだけや。」
清らかな笑顔に胸が温かくなった。
少しでも彼女を疑った自分が、恥ずかしくなる。
「そうか。昔から本読んでたんか?」
彼女のベッドの傍らにある
小説に目をやりながら、彼は言った。
「うん、休み時間のたびに図書室にこもってた。」
ニコニコと笑う。
彼女の学生時代には
まだ自分は生まれたばかりだった。
そう思うと、タクトは切なくなる。
考えても仕方ない事なのに、
胸が痛くなった。
そうだ、後でタカヒトに電話してみよう。
11歳年上の彼女と婚約した従兄弟なら、
自分のこんな気持ちを分かってくれるのではないか。
彼はそう思っていた。
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