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<第24章>彼氏になりたい その2
まゆこが検査から戻ってくると、
岡田が待っていた。
「どないやった?」
彼が心配そうに尋ねると、まゆこは笑った。
「割と順調やから、約束どおり一週間で退院できそうや。」
岡田のほっとした顔を見たら、
まゆこも嬉しくなった。
「一月は安静にせなあかんのやろ?」
「うん。戻ってもゆっくりせなあかんから、
仕事はまだまだ出来んと思うわ。」
「まゆこさん、仕事の事は考えんでええよ。
何とか回せてるし。
まゆこさんほど完璧や無いとは思うけど。」
彼がにっこり笑った顔を見ると、彼女は嬉しくなる。
まゆこは岡田の事を
どんどん好きになっていっている自分に、気が付いた。
仕事が増えてハードになったにも関わらず
兄の代わりに、毎日まゆこに会いに来てくれている。
帰り時間いっぱいまで一緒にいてくれるし
こんなに幸せでいいのだろうか?
「岡田君、いつも来てくれてありがとう。」
まゆこは改めて口にした。
「毎日ハードワークなのに、うちの為にわざわざ来てくれて。」
ほんのり岡田の顔が赤くなった。
照れているのか、ふっと目をそらす。
「なあ、まゆこさん。」
「なに?」
「俺な、今日ここの美人の看護婦さんに
電話番号もらってん。」
「!?」
まゆこの顔が青ざめた。
「もちろん受け取ってへんけどな。」
岡田が笑った。
「でさ、その時俺、
“音成まゆこさんの彼氏なんです。”って断ってん。」
まゆこの目が丸くなった。
“今、まゆこさんの彼氏って言ったよね?”
「まゆこさん。俺、まゆこさんの
彼氏になりたいねん。」
肩をそっと抱かれ、見つめられた。
顔が近い。
この間から、何度もキスはしたし
好きだとも言われたけれど、
それ以上は何も言われていない。
黒い瞳が、深い色できらめいている。
その奥に吸い込まれそうで、
まゆこは動けなかった。
「まゆこさん、俺の彼女になってや。」
両腕で抱かれると
彼の香水が香った。
その香水の名は、エゴイストと言うのだと
岡田に教えてもらった。
まさに彼にぴったりの名だと、彼女は思った。
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