<第8章>甘い追憶

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ

<第8章>甘い追憶

まゆこが帰宅すると、兄が出迎えてくれた。 「どうやった?って、聞こうと思ってたんやけど 聞くまでも無いようやな。」 彼女は赤くなった。 「岡田君から、告白されたんか?」 「うん。」 まゆこは頷いた。 「まゆこさんの事が、好きやって言われたわ。 うち、まだ信じられへん。」 人生で初めての告白は、 今まで出会った中で 一番素敵な人にされたなんて 信じられるはずも、無かった。 どうして私なのか、分からない。 騙されているのだろうか?? 「俺は知ってたで。岡田君の気持ち。」 兄がボソッと言った。 「まゆこを見る目が、他の女に対する目とは違っとった。 ただ、本人もそれがどういう感情か、 分かってなかったようやけどな。」 「そうなんか?」 「ああ。せやから、色々カマかけとったんやけど、 ようやく実力行使に出たか。」 ニヤニヤと笑っている。 「病気も色んなきっかけをくれるから、 あながち悪いもんでも無いなあ。」 「そらそうやけど、ならんに越した事はないで。」 「まあな。」 兄と会話をしながらも、 さっきの岡田の事を思い出している。 まるで夢を見ているようだった。 抱かれた腕の感触や、彼の体温 唇の熱さ。 あれは、まゆこのファーストキスだった。 初めてのキスは 彼女が想像していたような、 穏やかなものではなかった。 身体の奥に火をつけられて、燃えてゆくような そんな感覚が彼女を戸惑わせる。 いい年して初体験だったので、 笑われるかと思っていたのに 岡田はすごく、嬉しそうで意外に感じる。 耳たぶにキスをされて、 「可愛いよ。」と囁かれたとき 頭の芯が痺れていた。 ため息をつくまゆこを、兄が優しい目で見ている。 一日で別人に生まれ変わったようだった。 彼のおかげで手術も怖くなくなった。 そして、 彼女は自分の事を、少しだけ好きになる事が出来た。 記念すべき、一日だった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!