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<第1章>ファーストデート
それは手術の行われる週の、日曜だった。
約束どおり、何とか引継ぎを終わらせた
タクトとまゆこは
無事に自宅の前で待ち合わせていた。
前日に病院でも念を押されたし、
ラインも来ているのに
いまだにまゆこは
信じられない気持ちでいっぱいだった。
“あの、岡田君とデート。”
嘘やろ?と思う。
彼女は何度も「変やない?」と兄に確認した。
とにかく落ち着かない。
明るく鮮やかな
フクシアピンクのVネックのブラウスに、
膝下丈のスカートを合わせている。
髪を切ったその日に、デパートで買ったものだった。
心なしか、もとの体型よりほっそり見えて
気に入っている。
「見違えたな。」
と兄のお墨付きももらったしと
意を決して玄関を出ると、
岡田が車で待っていた。
青のデミオから降りてきた彼は、
助手席のドアを開けて、まゆこを手招きする。
「どうぞ。」
彼女を座らせると、自分も乗り込んで発進させた。
車の中は、良くある芳香剤ではなく
アロマの香りがする。
隣を見ると、岡田が運転している顔が見えた。
その横顔は、うっとりするほどカッコよかった。
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