<第3章>通じ合う二人

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<第3章>通じ合う二人

「ここで休みの日にはだいたい 保護犬や猫の面倒を見てるんです。」 タクトから説明を受けて、まゆこは感心していた。 「うちの病院でお世話してるだけやのうて、 ここのボランティアまで!さすがやね、岡田君。」 まゆこが言うと、 タクトは照れたような顔をした。 「早く言ってくれたら 母さんの病院の無いときでも、手伝ったのに。」 ・・・・予想以上の返事だった。 タクトは喜びを隠せない。 「ほんまか!?」 食い気味にそう言った。 「また来てくれるか?」 彼が嬉しそうに言うのを、 責任者の岡田さんが、優しい目で見守っていた。 「うん、ええよ。」 まゆこは頷いた。 「タクトくんの周りの子は、みんな優しい子ばかりやな。 妹のキョウコちゃんも謝りに来たし。」 そう岡田が言うと、タクトは笑った。 「俺、あいつが本当は“犬が怖い”なんて知らなくて。 連れてきてかわいそうな事をしたなって、思ってたんですよ。」 タクトが笑った。 「怖いって言えなくて、臭いから帰るわって。 あいつらしいわ。」 妹さんは可愛いけど、気が強いと聞いていた。 弱みを見せたくなかったのね、とまゆこは思った。 何だか可愛らしい。 一日手伝ったあとは、 タクトの家に車を置いて、こぢんまりとした居酒屋へ向かった。 大将はまだ若く、短髪のさっぱりとした顔の 青年だった。 「岡田さん、いらっしゃい。」 という顔が、優しく笑う。 「ようやく、ほんまの自分に気が付いたんやな。」 彼がタクトをじっと見つめながら言った。 「ああ。」 タクトが頷く。 まゆこは不思議そうに、 そんな二人のやり取りを見ていた。
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