<第4章>本当の彼

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<第4章>本当の彼

「おねえさん。まゆこさんって言うんですか?」 「はい。」 タクトがお手洗いに言った隙に、 店主がまゆこに呼びかけた。 「まゆこさん。あいつの事、頼みますわ。」 「え?」 いきなり頭を下げられて、びっくりした。 「あいつ、なかなか人に心を見せへんし 本気で誰かに心を動かされる事も、ほとんどあらへんのです。 やけど、この間の盆休みのとき 従兄弟の彼女をここに連れてきて、口説いてたんですよ。」 「・・・・嘘。」 まゆこはショックを受けた。 彼にも好きな人がいたんだと思うと、胸が苦しくなった。 「でもね、安心してください。見事に振られましたから。」 「はあ。」 安心していいのか、悪いのか判断が付かない。 なんとも言えない気分だった。 「その人ね、まゆこさんに似てたんですよ。雰囲気が。」 彼は続けた。 「あいつがいつも連れてるような、 モデル系の子じゃなくて、落ち着いた感じの人やってん。」 彼はにっこりと笑った。 「本当はあいつ、ずっとまゆこさんのことが 好きやったんやと思いますよ。」 「!?」 まゆこはびっくりしすぎて、何も言えなかった。 黙っていると、そのうちタクトが戻ってくる。 “まゆこさんのことが、好きやったんやと思いますよ。” その言葉が頭を回る。 まゆこは彼の顔を見れずに、うつむいていた。
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