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<第5章>本当の彼 その2
トイレから戻ると、何だか妙な雰囲気になっていて
タクトは戸惑っていた。
ちらりと店主のソウの顔を見ると、
いたずらっぽく笑っている。
“何か余計な事を言ったな、こいつ。”
タクトが苦虫を噛み潰したような顔で
彼を見た。
その後まゆこに目をやる。
彼女の耳元がほんのり赤くなっているのを見て、
タクトの心に邪念が沸いたが、
もうすぐ手術である。
無理はさせてはいけないと思い直した。
「もうそろそろ、帰りましょうか?」
彼はそう言うと、
ソウに勘定を頼んだ。
「うち、出すよ。引継ぎのご褒美やし。」
まゆこが言うが、タクトが制した。
「大事な休みの日に、丸一日付き合せたんやから
俺が出します。
元気になったら、また付き合ってくれたらええから。」
「え?またって?」
まゆこが目を丸くして、聞き返す。
「また、付き合ってくれるんでしょ?あそこに。」
「う、うん。」
彼女が頷くと、タクトは嬉しそうに笑った。
「早く元気になって、またデートしような。」
そう言うタクトを見つめたまま
まゆこは固まっていた。
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