雪にとける花

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2:幼少期の記憶 15年前── それは私がまだ5歳の時のこと。 日葵「我が西園寺家へようこそ。    これから娘をよろしく頼むよ」 〇〇「よ、よろしくお願いします!」 日葵「おお、威勢の良い少年じゃないか。    今日からここ君の仕事場だ。    何があっても美桜を守ると誓えるか?」 〇〇「はいっ! お任せ下さい!」 日葵「うん。その調子だ。君、名前は?」 〇〇「その……名前はないのです」 日葵「では、まずは名前を決めよう。何が良いか……」 その時だった。 同世代くらいの幼い少女は父親の背後からそっと顔だけを出した。 白い肌が少し光を浴び、輝いて見えた。 そして小さいが整った薄紅色の唇がそっと開いた。 美桜「……榊」 そして、彼女は背中に隠していた白く控えめな花をそっと差し出した。 日葵「それは美桜が一番好きなお花じゃないか。    榊……    でも、神聖で献身的な名だな。素晴らしい。    よし、君の名はこれから『榊』だ」 榊「さかき……」 そして、父親の背後に隠れていた少女がそっと私に近づき、 榊の花を差し出した。 美桜「よろしく」 美しい少女は控えめに微笑むと、 その白い肌の頬の部分は薄く桃色に染まった。 私は思わず見惚れてしまった。 日葵「榊、美桜を守ることと、もう一つ約束事がある。    『美桜に決して恋をしてはならない』    美桜と君は、令嬢と道端の石ころ、決して目線が合うことはない」 榊「……分かりました」 名を与えられたことに舞い上がっていたのだろうか、 私がまだ幼すぎたのだろうか。 西園寺氏の言葉は容易く感じた。 その時はまだ、 “恋”というものを知らなかったのだ──
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