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4:縁談
あのキスから少し経ったある夜。
寝室ではいつものように寝入りの白湯を出した後、灯りを消し、
お嬢様は天蓋付きのベッドへ、
私は床へ布団を敷き眠りにつこうとしていた。
美桜「……榊、もう寝てしまった?」
榊「いいえ、まだ起きております」
美桜「私、縁談が決まったの。
お父様が勝手に決めてきたわ」
榊「……おめでとうございます」
美桜「それが……おまえの答えね。分かったわ。
でもいいわ。その方、外交官と言うお仕事をしているんですって。
色んな所へ行けるわ」
榊「それは、素晴らしいですね。
お嬢様にとっても、素敵なご縁談ですね」
美桜「そうね。
榊、おまえも一緒に行くのよ?
素敵な景色は最初にあなたと分かち合いたいわ」
榊「それは、いけません。
夫婦となる方に失礼に値します」
美桜「いいえっ! おまえも一緒よ!!」
お嬢様は声を荒げた。
いつも穏やかなお嬢様のこんな声色ははじめて聞いた。
榊「お嬢様……」
美桜「その方、海外を転々としてらして、
実際にお会いするのは数年後になるらしいの。
その時までに心を決めておいてね。
榊……これは西園寺家の一人娘、美桜からの命令よ」
榊「かしこまりました……」
窓の外には、雪が降り、その雪が高く降り積もっていた。
決して結ばれることのない私とお嬢様。
こんなに近くにいながら、どうすることも出来ない。
“恋”とは、胸がこんなにも苦しいものなのか……
いっそこのまま、この雪と共に……朝方には溶けてしまいたい──
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