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<第31章>寄り添う二人
一旦母親を施設へと帰し、
葬儀の日取りを決めて関係者に連絡すると、
気付けば真夜中だった。
「俺、今日は帰らんって言ったから泊めてな。
ソファでエエから。」
「うちのベッド使ってよ!うちこそソファでエエから。」
慌ててまゆこが言うと、
「何言ってんの、まゆこさんがベッドで寝らなあかんって!」
岡田と押し問答になるうちに、
二人は見つめあって抱き合った。
「こんな時に、こんな事。」
まゆこは囁きながら、岡田を見つめる。
「でも、一緒に寝たら解決するで。」
岡田の瞳の色が深くなった。
「何もせえへんとは言わんけど、おとなしくしとくから。」
そっと優しくキスをされると
急に昼の出来事を思い出した。
さっきまで兄の倒れたショックで忘れていたのに、
急に身体が反応して吐息が熱くなると、
潤んだ目で岡田を見つめた。
「・・・タクト。」
そう彼女が囁くと、彼のキスが深くなる。
「おとなしくしとくんと違うんか?」
「まゆこさんが、そんな目で見つめるからや。」
「うちが悪いんか?」
「せや、まゆこさんが色っぽいから悪いんや。」
岡田がふざけて言う。
「お兄ちゃんがまた、“お腹一杯や”って言うんやろうな。
こんなこと言ってたら。」
まゆこが涙ぐみながら言うと、
岡田は彼女の涙を唇でぬぐってから
穏やかに彼女を抱き締め、
二人はベッドへ入った。
こんな夜は、ただ抱き合って寂しさを分かち合う
相手がいるだけで救われる。
まゆこと岡田は温もりを分かち合いながら、
黙って寄り添っていた。
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