10人が本棚に入れています
本棚に追加
<第32章>虹色の朝
翌朝まゆこが目覚めると、
目の前に岡田の顔があって、驚いた。
“そうだ、昨日は彼の腕の中で眠ったんだった。”
長いまつげが
目の前で呼吸のたびに揺れている。
彫りが深く、彫刻のような美しい顔だった。
良くラテン圏の言葉や英語で話しかけられるらしいが、
それも納得がいくくらい、
彼は日本人離れしていた。
いつか彼に“キレイ”と言って恥ずかしがられたけど
やっぱりキレイな顔だと思う。
ずっと見つめていても、飽きない。
昨日昼に抱かれたときは、恥ずかしくて良く見てなかったが
浅黒く均整の取れた体つきは、
海外のモデルのようだし、少しだけ茶色い髪に
パーマをかけているのも、嫌味なくらい似合っている。
見れば見るほど、自分にはふさわしくないのでは?
と思うまゆこだった。
そんな事を考えながら、そっと人差し指で
彼のまつげをなぞると、突然岡田が目を覚ました。
まゆこの両腕をがっちりと掴み、
彼女を組み敷くと、熱く口付ける。
息が苦しくなって、口を開けたら
岡田の舌が侵入してきた。
彼の手が緩むと、まゆこは岡田の背に腕を回す。
その情熱を受けて、
身体中の血液が逆流しそうだった。
「まゆこ。」
かすれた声で呼ばれる。セクシーな声だと思った。
「何?」
「先生のお葬式終わったら、両親に紹介するからな。」
「うん。」
「俺の奥さんになって。」
「うん。」
頷くまゆこに、岡田が微笑むと
世界が虹色に見えてきた。
プリズムからキラキラと零れ落ちる光が
二人を包む。
大切な人を失った切なさの後で、
二人は美しい朝を迎えていた。
最初のコメントを投稿しよう!