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<第10章>母の叱咤
後日老人ホームへ行った二人は、
先日徹也に撮ってもらった
動画をまゆこの母に見せていた。
「まゆこ、岡田君とお付き合いしだしてから
ほんまにキレイになったな。」
彼女は感心して言う。
チャペルで見つめ合う二人は、絵になっていた。
キョウコのメイクの腕前は、素晴らしいと思う。
「これをきっかけに、あいつダブルスクールでメイクの学校へ
通いだしたんや。」
タクトが二人に言うと、まゆこは感心した。
「凄いな。」
「まゆこが自分の手でキレイになって、嬉しかったらしいで。
本来クリエイティブな子やねん。」
昔から絵が上手く、色彩感覚に富んでいたキョウコは
普通の大学に進んで欲しかった両親の意向を汲んで
関西大学へ進学したが、
本当は美大へ進みたがっていたのを、タクトは知っていた。
「キョウコちゃん、器用やしいけるんちゃうか?」
まゆこが言う。
ええカッコしい(カッコ付けたがり)のキョウコだが、
今回は自分の好きな事を追求して欲しいと、
タクトは思っていた。
「そやね。ガッツはあるから行けると思うわ。」
彼がそう言うと、二人は微笑んだ。
「ところで二人とも、恭平からもらった手紙は
読んだんか?」
まゆこの母に聞かれ、二人は黙り込んだ。
「それがまだ、気持ちの整理が付かんのよ。」
しばらく黙ったあと、まゆこが口を開いた。
「読んでしまったら、お兄ちゃんが死んだ事を
突きつけられそうで。」
タクトもそれは、一緒だった。
お墓で手を合わせても、実感がわかない。
「そんな事でどうするんよ。」
母親が二人を一喝した。
「グズグズ言ってたら恭平も成仏でけんよ。
しっかり送りださな。」
そう言われ、二人は反省する。
「家に帰ったら、読んでみます。」
そう言うと、二人はホームを後にした。
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