11歳、夏

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11歳、夏

 初めて髪を染めたのは小学5年生。  夏休み、美容師のリエさん(と呼ばされているが実の母親)に遊び半分で金のメッシュを入れられた。 「ふふーん。どうよ、みんな」 「おーっ、隆也(たかや)いいじゃん、いいじゃん」  リエさんの勤め先の美容室。  小学生の髪を染めるなんてPTAのおばさんたちなら眉をひそめるんだろうが、ここにいる美容師たちはみんなして俺をほめちぎった。  リエさんは若い頃は結構ヤンチャやってたらしい。美容室のオーナーであるカズさんも他の従業員も同じような感じの人たちで、だからみんなそういう風紀という部分では大らかだ。  鏡の中、あたまのてっぺんから左に流された一掴みほどの金色がきらきら光って、自分でもなかなかイケてると思った。  リエさんが言うには、俺は、俺が生まれる前に事故で死んだというめちゃくちゃイケメンだった親父にそっくりらしい。その遺伝子のおかげで、小学生のこのころから俺はかなりモテていた。
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