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着信音のメロディが、しつこく鳴り続けている。
あまりのしつこさに、サファイアはさすがに気になり電話を手に取った。
画面に出ている『マキ』の文字を見て小さくため息をつくと、ためらいながら通話ボタンを押す。
『サファ!? もしもし? 聞こえるか?』
サファイアが声を発するより先に、マキシリュの声が届いてきた。
「聞きたくないけど聞こえてるよ」
サファイアは、素っ気なく答える。
『こないだの事……悪かった。あやまるよ』
「別にあやまらなくたっていいじゃん。シェードが王子を1番に考えるのは当たり前なんだからさ」
『そう言うなって……ホント、ごめんっ。もっと早く電話しようと思ってたんだけどさ。実は今……』
「サトナシにいるんでしょ?」
『……! なんでそれを?』
「ニュースでやってた。ギリザ王子がノーシュガガ城に転がりこんでるってさ。
だったらあんたがそこにいないワケないじゃん。『王子命』なんだから」
サファイアは、皮肉たっぷりに言った。
『サファ、あのな……お前にその……頼みがあるんだ』
「頼みっ??」
『王子は時間を持て余されている……
そのせいか、感動の涙が止まらない映画のDVDを買って来いなんて、意味不明な事を言い出されたんだ』
「はぁ~!?」
『感動ものの代表作といえば、“魔界の中央で鯛をさばく”しかないだろ!?
でもサトナシは田舎だから、まだDVDが発売されてないんだよ』
「……マキ。あんたまさか、あたしにDVD買って持って来いっつーの……?」
『今の王子のお立場を考えれば、頼めるのはお前しかいないんだ!』
「悪いけどぉ~、あたしは長期休暇の真っ最中だからぁ~」
電話の向こうで懇願するマキシリュに、サファイアは意地の悪い言葉を返した。
『こないだの件はあやまってるだろっ?
DVDさえ届けてくれたら、後は好きにしていいから。サファッ、お願いだ!!』
「……」
サファイアは、指で髪の毛先を巻いては滑らせ、沈黙した。
王子の気まぐれはいつもの事。
しかし、こんなくだらない用件でも、マキシリュにとっては一大事なのだ。
王子のためどれだけ必死なのか、彼の性格をよく分かっているだけに、むげにことわる事は出来なかった。
「……届けるだけだからね……」
『ありがとう、サファ! やっぱりお前も王子のシェードだなっ。
王子のために動いてくれると信じていたぞっ』
王子のためであるはずはないが、マキシリュの安心しきった様子がうかがえるとちょっぴりわだかまりが薄れ、
サファイアは少しだけ許せる気持ちになれた。
「はぁ~。あたしも人がいいよね。
そうと決まれば、さっさとDVD持ってって休暇を満喫しなきゃだよっ」
サファイアは、通話終了ボタンを押しながら両手を真っすぐに上げ、折れそうに細い身体をグーッと伸ばした。
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