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ドリンガデス国、ノメーン砂漠に近い街――
鉄鍋男、煎路の足取りを追う内に、レンジャーとヤローはドリンガデス国に入国していた。
「大将、面白い情報つかんだよ」
街道沿いのベンチに寝そべるレンジャーを見下ろしつつ、ヤローは持っている小型ラジオの電源を切った。
「面白い情報?」
目を覆う帽子のつばを少しだけ上げ、レンジャーは片目を開けた。
「第一王子の魔馬とのレース、参加者急募だってさ」
「私の魔馬と!? そんな募集をかけた覚えはないぞっっ」
レンジャーが驚き飛び起きると、寝ている間に身体にちらほら積もっていた砂が舞い上がり、口の中に容赦なく入りこんだ。
「ガハッ! ガアッ! ゴァハッッ!」
のどに砂がまとわりつき、レンジャーはひどくむせてしまう。
「バァ~カ。オタクじゃなくて、この国の第一王子の魔馬だよ」
「コホッ、コホッ、こ、この国の……?
ああそうか……ここはもう、ドリンガデスだったな……ケホッ」
「参加の条件は、騎手無しでもレース出来る魔馬。血統書付きの魔馬。主人と種交わし済みの魔馬……だってさ」
「レンレンは、どれも条件に合っているではないかっ」
「勝てば賞金、五百万らしいよ。鉄鍋の七万インリョーっぽっち、追う必要もなくなるね。ただ……」
「テントと帽子が買えるぞ、ヤロー! いつだっ? いつどこで!?」
レンジャーは意気込み身を乗り出すや、どこぞやで拾ったドリンガデス国の地図を帽子の中から取り出すや、膝の上に大きく広げた。
「サトナシの里っつってたねぇ」
「サトナシ……どこだ? そんな地名どこにもないぞ!?」
魔界一広い国土を誇るドリンガデス国の地図だ。
そう簡単に探し出せるはずがない。
あせればあせる程、なおさらの事。
だが、落ち着きなく地図をグルグル見回すレンジャーとは違い、
端からひと文字ずつ確認していたヤローは比較的早く『サトナシ』を見つけ出すと、
「あるじゃん」
ラジオのアンテナを口にくわえて伸ばし、その位置をアンテナの先で差し示した。
「おお! でかしたぞ、ヤロー!」
広げた地図の両端を握りしめ、レンジャーはすっくと立ち上がった。
「しかし問題は現在地だ。ここはいったいどこなのか……
そうだ、ヤロー。こんな小さな街を地図で探すより、すぐそこの砂漠を見つけよう。砂漠の名を覚えているか!?」
「ノメーン砂漠だよ」
「ノメ……ノメーン……」
探す範囲を砂漠地帯だけにしぼり、再び地図を見回していたレンジャーの眼球が、ピタリと止まった。
「あったぞ……地図で見る限り、サトナシとやらはノメーン砂漠からそお遠くはないようだな……」
二人が立ち寄っている街に程近い、ノメーン砂漠。
その砂漠から砂をさらって吹いて来る風にも、地図とにらめっこしているレンジャーにも背を向け、ヤローは自分の魔馬の方へと歩を進めた。
「間に合うのかい? レース開始は2時間後とか言ってたよ」
「2時間後だと!? 後2時間しかないではないか!
しかしここからなら間に合わん距離でもなかろう!!」
「やめときなって大将。
相手はあの悪名高いガフェルズ王家の長男だよ?
勝ったところで後々厄介な目に合うのがオチさ。そおだろ?」
ヤローがそう注告し、ベンチに向き直った時だった。
砂漠からの風が、いっそう強く吹き付けた。
風は砂だけでなく、レンジャーの手から地図をも連れさらい、ヤローの顔面にバサッとかぶさった。
「うっ! このバカッ! ちゃんと持って……な……」
顔にはり付いた地図をヤローがはぎ取った時には、
レンジャーの姿はすでに、もうどこにも見当たらなかった。
彼の愛魔馬、レンレンと共に……
「ったく……脳みそってやつ持ち合わせてないのかねぇ。
たとえ間に合ったとしても、そんときゃレンレンの体力だって落ちてるだろ~に。
だいたいテントだの帽子だのと小さな事を……大金が手に入ったら何をおいても魔牛ステーキが先だろーがっっ」
小さく舌うちしながら、ヤローは手にしていた地図を何気なく見つめていた。
何気なく、ただぼんやりと――
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