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手元電話を片手に、もう片方の手で極上のボトルビールを大事そうに抱え、マキシリュは王子の待つレース会場へと急いでいた。
「予定よりだいぶ時間をとってしまったな。王子はもうお帰りになる頃だろう……」
手元電話で時刻を確認していると、画面に着信が表示された。
マキシリュはいったん、足を止める。
「は、はいっ。マキシリュです!」
『どうなっているんだ、マキシリュ。そっちの状況を説明しろ』
その電話は、サトナシ祭の別枠レースをテレビの中継で知った、ゼスタフェからの連絡だった。
「その事でしたら……心配は無用です、ゼスタフェさん。今頃はギンギン号の不戦勝となっているでしょうから」
『マキシリュ。お前はどこで何をしているんだ。
たった今、対抗魔馬が現れたのを知らないのか?』
「対……!? ま、まさかそんな……! 本当ですか!?」
『王子のおそばに付いていないのか?』
「それがその、王子のご要望でフルーツビールを買いに……
ちなみに高級ラズベリービールでして、探し出すのに苦労しており……」
『フルーツビールなどどうでもいい。
それより相手の魔馬だが、かなりの強敵かもしれんぞ。
マキシリュ、万が一ギンギン号が敗北を喫する結果となった際は……』
(は、敗北……!? ギンギン号が……!?)
マキシリュの脳裏に、信じたくない最悪の結末がよぎる。
受話口から流れてくるゼスタフェの声は、雑踏する街のにぎわいにかき消され、聞こえなくなっていた。
「そんな事……」
『マキシリュ、聞いているのか?』
「そんな事あるはずが……!!」
電話を持つ手にグッと力が込められ、マキシリュの指は自らの意思とは関係なく、通話終了ボタンを押していた。
(どんな敵であれ、超サラブレットのギンギン号にかなうワケがない!)
電話を強く握ったまま猛ダッシュしたマキシリュの腕からボトルが離れ、
石畳の道に、ボトルが落ち割れたガラスの破片が散らばった。
時間をかけてやっと見つけ出したビールは泡をふいて流れ出し、
平凡な道にラズベリー色の細い川を創り出していた。
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