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その頃、この魔馬レースの経過を見過ごす事ができないそれぞれの者たちが、
国内国外のいろいろな場所で、様々な思いを巡らせていた。
①
パンブレッド国、サンドヨッツ村のパイ=サッガルの家では――
「いけいけ――!! どっからかっさらったのかは知らないけど煎ニィの魔馬、負けんなぁ――!!」
応援が過熱したアップルダがテレビをつかんでガタガタとゆらし、はっせんに荒々しいエールを送る一方で、
「嫌な予感が的中しちゃった……
どうしよう。煎ちゃん、生きて帰れるといいけど……」
豆実は両手で目を覆い、画面をまともに見られずにいた。
②
山麓の集落から一番近い、ある小さな街では――
「ストロング……! じーちゃん見てよっ! ストロングだよ!!」
祖父に連れられ街に来ていた少年トーマスが、
店先に置かれた壊れかけのテレビを指さし、奇声を上げていた。
「たてがみも目の色も、センジ兄ちゃんとおんなじだっっ」
「おお……! これは夢、幻か! あの走りはまさしく若かれし頃のストロング……!
センジ様の色に染まり、お前はよみがえったのじゃな……!」
トーマスの祖父、山麓の村の村長は、煎路と種を交わし合ったストロングの活躍に感動し、目頭を熱くしていた。
③
ドラジャロシーが身を寄せている、彼の行き付けのクラブにつとめるホステス宅ではーー
「あのタラコめが魔界に居たとはな……
それはそうとこのレース、父上も必ずや中継を目にしておろう……
もしギンギンが負けるような事となれば俺にとっては好都合。
ククッ。今度こそ兄上も終わったな」
ドラジャラロシーが部屋のソファを我がもの顔で独占し、
カクテルグラスをテレビに向けて掲げ、ほくそ笑みつつ乾杯の仕草をとっていた。
④
バイトの旅案内をしている焙義、ロンヤ、モモタローの三人はその旅先でーー
客が持っていた携帯式の手元テレビで煎路の居場所を知る事となっていた。
「焙義さん。きんきらイスに座ってるの……あの時の王子……だよね……?」
「みたいだな」
「君たちが人間界で戦おうとした王子かい? 確かに悪党面してるなぁ……
おんなじ人間界に居たってのに、僕も直接拝んでやりたかったよ」
「さすが宗教家だね、モモさん……なんかその、尊敬するな……」
「いや、ロンヤ。その拝むじゃなくてさ……」
「煎路の奴、もうドリンガデス国にいたとはな……」
「焙義クン、どうする? ちょうどこの旅も終わることだし、煎路がいるサトナシの里ってのを目指してみるかい?」
「……ああ、そうだな。
これ以上煎路を野放しにはしておけねえ。行くしかねーな」
焙義が答えると、ロンヤとモモタローも深くうなずき、三人はドリンガデス国へ向かう決心をしていた。
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