「魔動物愛護団体につげぐっちまうぞ!」

11/14
前へ
/26ページ
次へ
 その頃、この魔馬レースの経過(けいか)を見過ごす事ができないそれぞれの者たちが、  国内国外のいろいろな場所で、様々(さまざま)な思いを(めぐ)らせていた。  ①  パンブレッド国、サンドヨッツ村のパイ=サッガルの家では―― 「いけいけ――!! どっからかっさらったのかは知らないけど煎ニィの魔馬、負けんなぁ――!!」  応援が過熱(かねつ)したアップルダがテレビをつかんでガタガタとゆらし、はっせんに荒々(あらあら)しいエールを送る一方(いっぽう)で、 「嫌な予感が的中(てきちゅう)しちゃった……  どうしよう。煎ちゃん、生きて帰れるといいけど……」  豆実は両手で目を(おお)い、画面をまともに見られずにいた。    ②  山麓(さんろく)集落(しゅうらく)から一番近い、ある小さな街では―― 「ストロング……! じーちゃん見てよっ! ストロングだよ!!」  祖父に連れられ街に来ていた少年トーマスが、  店先(みせさき)に置かれた壊れかけのテレビを指さし、奇声(きせい)を上げていた。 「たてがみも目の色も、センジ兄ちゃんとおんなじだっっ」 「おお……! これは夢、幻か! あの走りはまさしく若かれし頃のストロング……!  センジ様の色に染まり、お前はよみがえったのじゃな……!」  トーマスの祖父、山麓の村の村長は、煎路と種を交わし合ったストロングの活躍に感動し、目頭(めがしら)を熱くしていた。  ③  ドラジャロシーが身を寄せている、彼の行き付けのクラブにつとめるホステス(たく)ではーー 「あのタラコめが魔界に居たとはな……  それはそうとこのレース、父上も必ずや中継を目にしておろう……  もしギンギンが負けるような事となれば俺にとっては好都合。  ククッ。今度こそ兄上も終わったな」  ドラジャラロシーが部屋のソファを我がもの顔で独占し、  カクテルグラスをテレビに向けて(かか)げ、ほくそ笑みつつ乾杯の仕草(しぐさ)をとっていた。    ④  バイトの旅案内をしている焙義(ばいぎ)、ロンヤ、モモタローの三人はその旅先でーー  客が持っていた携帯式の手元テレビで煎路の居場所を知る事となっていた。 「焙義さん。きんきらイスに座ってるの……あの時の王子……だよね……?」 「みたいだな」 「君たちが人間界で戦おうとした王子かい? 確かに悪党(あくとう)(づら)してるなぁ……  おんなじ人間界に居たってのに、僕も直接(おが)んでやりたかったよ」 「さすが宗教(しゅうきょう)()だね、モモさん……なんかその、尊敬するな……」 「いや、ロンヤ。その拝むじゃなくてさ……」 「煎路の奴、もうドリンガデス国にいたとはな……」 「焙義クン、どうする? ちょうどこの旅も終わることだし、煎路がいるサトナシの里ってのを目指してみるかい?」 「……ああ、そうだな。  これ以上煎路(アイツ)を野放しにはしておけねえ。行くしかねーな」  焙義が答えると、ロンヤとモモタローも深くうなずき、三人はドリンガデス国へ向かう決心をしていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加