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「……おかしい……おかし過ぎる……どうなっているんだ……
想像していたレースとはかけ離れているぞ!」
まるまる太った魔豚の群れに包囲されている愛魔馬レンレンを見つめ、レンジャーは一人、ぼやいていた。
魔豚だけではない。
多くの老若男女までもが、もの珍しそうにレンレンを取り囲んでいる。
「こりゃあ見事な魔馬公だんべ!?」
「魔豚たちよりずーっと後からやって来て一等さとるなんてよ。
さすが魔馬公は速えもんだわさ~」
魔馬を飼う余裕がある者はなく、代わりに魔ロバが数頭いるだけの田舎の農村。
訪れる者はほんのひとにぎりで、地図にはあるものの世間一般にはほとんど知られていないへんぴな寒村だ。
そんな小さな目立たぬ村でささやかに行われていた祭りは、ちょうど魔豚のレースが終わったところだった。
村人たちは皆、いきなり現れ魔豚たちの合間を駆け抜けるや風のごとくゴールを通過した華麗な白魔馬を前に高揚し、ワイワイガヤガヤとはしゃいでいた。
「こいつはきっと、ゴービー木様の精霊の化身に違いねえべ!」
「普通の魔馬公ですらなかなかお目にかかれねえってのによ~」
「んだんだ。めったと拝めねえだよ。ほれ、お祈りすっだ」
「あ~り~が~た~やぁ~」
特別美しい高雅な魔馬が登場した上、こんな至近距離で見る事ができる。
村人たちは老いも若きも誰もが目をきらめかせ、レンレンを精霊の化身と信じて崇めていた。
レンレンを中心に描かれた、魔豚の群れと村人たちの輪の外で、レンジャーだけは現況を理解できず、ただただ棒立ちになっている。
五百万インリョーの賞金目当てに悪路を越えてまでやって来たサトナシの里。
大国の王子の魔馬を相手に走りを競い合う、格式高いレースと思い来てみれば、
実際は、今にも転がり出しそうなむっちり魔豚たちとのかけっこだったのだ。
「おかしいのは私の方なのか……? 誰でもいい。教えてくれぇーーっっ!!」
レンジャーは、抱えた頭を振り回して嘆いてみるが、いくら嘆いてもどうなるものでもない。
そもそも彼は、向かうべき場所を最初からあやまっていたのだ。
『サトーナシ村』
村の入口にある粗末な立札に刻まれたこの村の名を、レンジャーは目にとめていなかった。
そこが、目指していた『サトナシの里』とは全く無関係の場所であるという衝撃の事実と、
彼はいつ直面するのだろうか――
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