「ぼんぼりも桃の花もない上、お内裏様はおっさん魔王で雛は不在」

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 ~~~~~~~~~~~~~ 「それで……兄上たちはどうなったんですか?」  マトハ―ヴェンは、遠慮気味にきいた。 「審判雛五段の審議(しんぎ)はいつも通りに()(おこな)われた。  一番下の段に『B・ゴービーッシュ交響楽団』が待機(たいき)しており、  その上にはどう考えてもヒマそうなのを適当に連れて来たであろうメイド三名が並んでいた。  真ん中の段にはパンダをはさみ老臣(ろうしん)二名が、  さらに上にはゼスタフェとフライトが座っていた。  そして最上段は言うまでもなく、父上(やつ)(じん)()っていた。  とにかく(こう)(へい)もない審議の中、サア(ばあ)は俺たちの弁護に全力を尽くしたのだが……  父上(やつ)が相手ではどうする事もできず、俺たちは期間限定のゴービッシュ城払いを命ぜられたのだ!」  ギリザンジェロは、こみ上げてくる怒りと悲しみをこらえつつひと息おくと、  気持ちを落ち着かせるためサンルームの外に展開(てんかい)する青空を眺めた。 「兄上……」  兄の(うれ)いがひしひしと伝わり、マトハ―ヴェンはギリザンジェロに(あわ)れみを感じていた。 「いくら規則に反したとは言え、自分の部屋にも戻れない日々が続くなど……  兄上、心中お察しします。ところでその期間限定とは、いつ頃までなんですか?」 「決まってはおらぬ。全ては父上(やつ)の気分次第という事だ」 「では兄上。父上のお許しが出るまで、是非(ぜひ)このノーシュガガ城で過ごしてください!  兄上が居てくれたら、僕も嬉しいです!」  マトハ―ヴェンは本心で、兄の滞在(たいざい)を強く望んだ。  兄たちとは別々に育てられたマトハ―ヴェンにとって、兄弟水入らずの時間は今も昔も貴重なものなのだ。  重苦しくなっていたサンルームの空気を一掃(いっそう)するように、爽快(そうかい)な香りが流れこんできた。 「お待たせいたしました。  ラズベリーたっぷりのレモネードと、かなり酸っぱいレモネードでございますよ。  特製のサンドイッチもお作りしましたので召し上がりくださいませ」  コトコトと音をたてながら、乳母がティーワゴンを押して来た。 「ギリザンジェロ様。よくおこしくださいました」  乳母は胸に手を当て前かがみになり、ギリザンジェロに深い敬愛(けいあい)を表す姿勢をとった。 「ギリザ兄上。婆や特製サンドイッチは最高においしいですよ」 「まことにうまそうだな。そう言えば、シフォンネに魔族の料理を仕込んだのが婆やであったな」 「おそれいります。されど今ではシフォンネ様の方が、多くのレシピをお持ちでございますよ」  乳母は謙遜(けんそん)しつつ、レモネードのグラスとサンドイッチの皿をテーブルの上に並べていった。 「どうぞ心ゆくまで、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」  乳母はそう言うと、王子二人に一礼(いちれい)してからサンルームを出て行った。  再び、コトコトとティーワゴンの音をたてて―― 「うむ。どれも美味(びみ)であるが、やはりコレが(ぐん)をぬいておるわ」  特製サンドイッチの中でも、ギリザンジェロが特に気に入ったのは、ラズベリージャムがぬられているサンドイッチだった。  元々(もともと)ラズベリーが嗜好(しこう)なのか、それともラズベリー王女の名にちなみ後から好むようになったのか、  それはギリザンジェロ本人も覚えてはいない。  とにかく、ギリザンジェロは(した)も気分も上々(じょうじょう)になっていた。 「フン。この俺に田舎など似つかわしくはないが……  マトハ―ヴェンよ。お前がどうしてもと言うのなら滞在(たいざい)してやってもよかろう」  言いながらギリザンジェロは、マトハ―ヴェンが持っている冊子をじっと見つめ、再び真剣な顔になった。 「さて。ここからはいよいよ本題に入ろうぞ。  俺がどこで冊子(ソイツ)を手にしたのかを……」 「あ、ああ。そうでしたっ」  マトハ―ヴェンは自分が手にしていながら、冊子の事などまるっきり忘れていた。 「これから語るのは、父上(やつ)が俺たちに非情な判決を(くだ)した後の出来事だ……!」
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