「ROSEMARY'S PLAY」

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「ROSEMARY'S PLAY」

 長い(かたな)が一本、空からものすごいスピードで落ちてくる。  ロンヤは両手の手首をくっつけると、天に向けて手の平を広げ、身構えた。 「よしっ。今だっっ!」  落ちてくる刀をねらい、ロンヤは手の平から強く魔力を放出(ほうしゅつ)させる。  が、しかし……  刀は瞬時(しゅんじ)に再び空へと方向転換し、ロンヤの魔力はかすりすらしなかった。 「は、はやいっっ!!」  ロンヤはそのまま魔力を押し上げ、必死で刀を追う。  ところが刀の高速移動はすさまじく、追いつくどころか完全に見失ってしまった。 「あれ……!? な、なにクソ!!」  あせったロンヤは、そこらじゅう当てずっぽうに攻撃しまくる。  そんなロンヤをたしなめるように、刀は上空(じょうくう)からパッと現れるやいなや、    ロンヤの両腕の間をすりぬけ、(するど)く地面に()き立った。 「……あ……」  何が起きたのか分からない。  ロンヤはその場にへたり込むと、地に()さり倒立(とうりつ)した刀を、ただボーッと見つめるしかなかった。 「適当な攻撃で勝利できるほど甘くはないぞ。ロンヤ」  へたり込むロンヤの前には、焙義(ばいぎ)が立っていた。  長く凛々(りり)しいその刀は、焙義の名刀(めいとう)深中浅(しんちゅうせん)』だった。 「焙義さん……」  焙義は深中浅をぬき取るや、上衣(じょうい)(すそ)刃先(はさき)()き、納刀(のうとう)した。 「さっすが(にい)ヤン! ローリーたじたじだねっっ」  魔羊(まぎ)たちを()れたアップルダが、軽快(けいかい)なリズムで手を打ちながら二人のそばにやって来る。 「でもローリーも案外やるじゃん。ただのまったり君だとばかり思ってたのに、見直したよっ。  それにあのヤケクソな攻撃……ププッ。短気な一面も持ってんじゃん!?」」  アップルダはロンヤの正面に座り込み、ずり落ちそうになっているロンヤのメガネを上げ、にんまりと笑った。  アップルダの小さな顔が、真ん前にある。 「プ、プルダちゃん……!」  彼女の鮮やかなイエローの目に照らされ、ロンヤの心臓はドキドキで飛び出しそうになっていた。 「ロンヤ、今日はここまでにしよう。そろそろバイトに出かけねえとな」 「あ、そう……そうだった……!」  焙義に言われ、ロンヤはアップルダの視線から逃げるようにあたふたと腰を上げた。 「ええ!? 兄ヤンたち、バイト先決まったのかい? どこどこっ?」  元気よく飛び上がり、アップルダは二人にきいた。 「旅の案内人募集ってチラシをたまたま拾ってな」 「旅案内ぃ~? 兄ヤン、ずっと人間界にいたのに案内なんかできんのかい?」 「俺たちが住んでた頃とあんま変わってねえみてーだし、何とかなるだろ。  行く先行く先で給金(きゅうきん)もらえるってのが好都合で決めたんだ。ロンヤも一緒に働けるしな」 「うん……自分も、何もしないでいるよりは……」 「ふぅ~ん。二人一緒に(やと)ってもらえるなんてラッキーだったね」 「用心棒も()ねてるからな。出来れば三、四人集められないかと頼まれたんだが……」 「兄ヤンが居れば、他の用心棒なんかいらないよ。ローリーもなかなかのモンだったしね」 「そ、それほどでも……」  ロンヤは、嬉しくも気恥ずかしそうに頭をかいた。 「行くぞ、ロンヤ」  魔力の訓練を始める前に、納屋(なや)のそばまで連れ出しておいた魔馬(まば)の方へと、焙義は歩き出す。 「ローリー。魔界の色んなとこに行けたら、色んなことが知れるから良かったじゃんか。  さあ、行っといでっ!!」  アップルダは、力いっぱいロンヤの背中を押した。 「わわ、わわわっっ」  思いきり押された勢いで、ロンヤは牧草(ぼくそう)地のゆるやかな坂を一気に駆け抜けて行く。  たまげた魔羊たちが飛びのいて一直線に道を開け、ロンヤは焙義の横を通り過ぎ魔馬の前まであっと言う間にたどり着いた。 「アハハハッッ。ローリーが兄ヤンを追いこすなんて、こりゃいいや!」 「笑い過ぎだぞ。プルダ」  焙義もすぐに魔馬の元へ行き、馬具(ばぐ)(あぶみ)に足先を()け、身体にはずみをつけてその高い背中にまたがった。  人間界の馬よりも大きい魔馬に軽々(かるがる)乗った焙義を見上げ、 「た、高い……っっ」  ロンヤは明らかに戸惑っている。 「ほら、ロンヤ」  焙義はロンヤに手を差し出した。  魔馬に乗るのは初めてのロンヤだったが、焙義に引き上げられ馬体(ばたい)にしがみつきながら、どうにかこうにか後ろ(がわ)に乗る事が出来た。 「うわ……! 見晴らしがいいや……!」 「魔馬はでかいだけじゃないぞ。スピードもあるからしっかりつかまってろよ」  慣れないロンヤのため最初はゆっくりと魔馬を走らせ、焙義は徐々(じょじょ)に、魔馬の足に加速をつけていく。  ロンヤは言われた通り、焙義の両肩にしっかりとつかまった。 「兄ヤン、ローリー! たんまり(かせ)いできなよ~!!」  アップルダは、大きく手を振って二人を送り出した。  ついさっきまで間近(まぢか)に聞こえていたアップルダのほがらかな声は、  予想以上の魔馬の速さでロンヤの耳からまたたく間に遠ざかっていった。
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