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ポツリ、ポツリと数軒店があるだけの小さな町を、煎路ははっせんを引っぱりトボトボと歩いていた。
「おい、疲れてねえか? まあ、歩くくれえなら問題ねーか……」
本当に急ぐ時のために、はっせんを走らせるのはもちろんの事、乗馬する事さえも煎路はひかえていた。
毎日の筋肉マッサージも欠かさず、煎路は老いた魔馬に何かと気を使い手をかけていた。
「この俺が女の子以外に尽くすなんてよ……ありがたく思えよ、この馬郎……ん?」
文句をたれる煎路の脳に、じんわりと何かが伝わってきた。
「あ? なんだ??」
煎路は立ち止まり、その“何か”に意識を集中させる。
「……んじ、煎路……聞こえるップか? 聞こえるップか?」
それは、魔界に到着した際、パワースポットに放置してきたクッペの声だった。
「よぉ~、クッペ。お前いったいどこで何やってんだ?」
「それはこっちのセリフップよ。
クッペはさっきサンドヨッツに来たところップ。
焙義も煎路もロンヤも居なくてビックリしたップよ~」
「アニキとロンヤも……? そういや、バイトするとか言ってたな」
「アップルダが言うには、旅案内の仕事に行ったらしいップよ」
「旅案内だぁ~??」
「もっとビックリは煎路、モモタローが魔界に来てるップ!!」
「モモが!? そこにいるのか!?」
「焙義とロンヤを追いかけて行ってしまったップゥ~」
クッペの話の中で、煎路は兄が就いた仕事の内容が何よりも引っかかった。
(なんで旅案内なんだ……?)
「煎路っ! 今どこに居るップか?
豆実がすっごく心配してるって、アップルダが怒ってるップよ!」
「あ? ああ……よく分からねえ。
大型の荷馬車にヒッチハイクもしたからな……どっかちっせえ町には出たんだけどよ」
「大きく息を吸って、精神を統一するップ! そしたらクッペには、煎路の居場所が分かるップよ!」
クッペに言われるがまま、煎路は肺にたっぷりと空気を吸い込み、全神経を集中させた。
「そおップ、そおップ! いい感じにきたップよ~っ」
煎路を取り巻く周囲の気を、クッペが順調にとらえ、場所の確認をしようとした時だった。
「ププッ!?」
突如として、煎路との交信がとだえてしまった。
「煎路……!? 煎路!? 煎路!?」
クッペが何度呼びかけても、結局その後、煎路からの応答はなかった。
「……煎路。また悪いクセが出たップね……」
クッペは最後に一瞬、感じ取ったのだ。
研ぎ澄まされた煎路の神経にビビッと走った野獣のごとき情動を――
それは間違いなく、女の子を発見した時にみせる煎路の狂気……
いや、驚喜だった。
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