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「ねえねえ、コレ知ってる?」  自分が座っている横――右側に勢いよく吸い込まれてるように、彼女はソファに座ってくる。柔らかい座面は、しかし彼女の勢いを吸収しきれない。肩と肩が当たる。そのまま彼女の身体は背もたれ側に少しだけ傾ぐ。――胸が、かすめた。 「ん? どれ?」  とりあえず、無事に平静を保つことには成功する。差し出されたスマートフォンの画面を見る。そこにだけ集中しておく。幸い、彼女の視線も画面に向けられているので、バレる様相は見えなかった。 「……あー、そっか。そっちのスマホって非対応かー」 「うるさいなー。必要がないんだよ、必要が」  そりゃ、WEB記事をそこそこサーフする機会もある。『古い機種は貴方の時間を食い潰す』的な、「お前、記事ページにの右上に【PR】って文字入れるの忘れてるぞ」と突っ込みたくなるような、下手くそなステマ記事だって見たことがある(出てくる機種が1社提供の時点で確定だ、って話だ)。  だが、仕事のメールや家族からの連絡が、そこそこの頻度で飛んでくるだけのような人間に、ここ最近リリースされるハイテクの塊なんて、どう考えてもオーバースペックだ。  彼女が見せてきたのは、インカメラで写した自分の顔と絵文字を合成するヤツ。――ああ、そんなのもあるなぁ、とは思っていた。知っては居る。何処で使うんだよ、と思っていた。――こういうところ、なのか? 一発ネタなのか。 「これ面白くない? わりと時間忘れて遊んじゃうんだけどさー……」  隣でコロコロと表情を変えれば、鏡映しのように画面に映るネコもコロコロと表情を変える。まぁ、たしかに面白い。それは認める。 「結構面白くできたの、何個かあるんだけどー」  一旦、手を引っ込める。何やらメッセージアプリを起動しているようだ。凝視していた画面から、こちらも一旦視線を外す。  自分がされたくないことは、他人にもしてはいけない。
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