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「あの……今日は、すみませんでした」
「ああ、『AVおじさん』のこと? 」
頭を下げたまま、倫音は頷く。
「あれは、天崎さんは悪くないよ。アイツ、新人の女の子が入ると必ずやるの。気にしないで。こちらこそ、フォローに入るのが遅れて、ごめんね」
シフト表から顔を上げ改めて向き直ると、満面の笑顔の倫音と目が合った。
「ありがとうございます、本間さん」
めっっっちゃ、可愛いじゃないかい!
……と思わず抱き締めたい衝動に駆られたけれど、相手は女子高生→未成年→淫行→タイホー!
……となってしまっては、描いていた出世ルートの青写真が台無しだと悟り、なるべく頭の冷える話題に涼太は切り替えた。
「そういえば、秋光もウザイでしょ。アイツの話は適当に流しといていいよ。返却はダルい、接客は人見知りだとかぬかしてやりたい仕事しかしないし、役に立たない先輩で悪いね」
「そんなことないです。秋光さん、博識で面白いですよ」
秋光さん?
苗字の藤谷じゃなく、ファーストネームで呼ぶほど既に2人は仲良くなっているのか…と訝しんだのが、表情で丸わかりだったのだろうか。
違うんです、と言いたげに真っ直ぐに差し出した両手を振りながら、倫音は訂正した。
「『アキミツ』って音が気に入っているから、苗字の藤谷より名前で呼んでくれって…」
ぬぁぁぁにが、「音が気に入っている」だ。ヤング子泣き爺の癖に、色男ぶった発言をしやがって、あの野郎。
……という心の声を決して漏らさないように細心の注意を払いながら、なるべく爽やかな顔で、涼太は自分の名前もアピールした。
「じゃあ、俺も『リョウタ』でいいよ。天崎さんは、『リンネ』ちゃんだよね?」
秋光を出し抜いてやりたい気持ちも相まって、さりげなく名前を呼んでみた。
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