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「うん、門倉タカシ君ね。見た目と違って、演歌歌手みたいな名前だけど」
「天崎? あ~、倫音ちゃんね。店長と涼太君と、ついでに秋光君も気に入ってるっていう」
余計なこと言ってんじゃねぇよ、タカシ!
……と、ガン飛ばしをしたい涼太だったが、タカシと対面したまま戸惑っている倫音に遮られ、不可能だった。
「あの、苗字の『天崎』で呼んでもらえ…」
「なんで~。可愛いじゃんね? 『リンネ』ちゃん」
「……お先に失礼します」
通じない相手だと悟ったのか、当たり障りのない程度の薄笑いを浮かべ、倫音が立ち去ろうとしたその時。
「今、ムカついたでしょ。何で無理して笑ってるの?」
斜め後ろから見ていた涼太にも分かるくらい、倫音の表情が一瞬で『無』になる。
そして黙ったまま、タカシの側を通り抜けた。
そんなことは気にしないとばかりに、倫音の後ろ姿に向かって、タカシは声を張った。
「外、風強いから。帰りのチャリ漕ぎ、気をつけてね~」
秋光といい、コイツといい、どうしてうちのバイトは空気の読めない奴らばかりなんだ。
白紙のシフト表を前に、涼太は頭を抱え込みたくなった。
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