1.はじめての労働

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「うん、門倉タカシ君ね。見た目と違って、演歌歌手みたいな名前だけど」 「天崎? あ~、倫音ちゃんね。店長と涼太君と、ついでに秋光君も気に入ってるっていう」 余計なこと言ってんじゃねぇよ、タカシ! ……と、ガン飛ばしをしたい涼太だったが、タカシと対面したまま戸惑っている倫音に遮られ、不可能だった。 「あの、苗字の『天崎』で呼んでもらえ…」 「なんで~。可愛いじゃんね? 『リンネ』ちゃん」 「……お先に失礼します」 通じない相手だと悟ったのか、当たり障りのない程度の薄笑いを浮かべ、倫音が立ち去ろうとしたその時。 「今、ムカついたでしょ。何で無理して笑ってるの?」 斜め後ろから見ていた涼太にも分かるくらい、倫音の表情が一瞬で『無』になる。 そして黙ったまま、タカシの側を通り抜けた。 そんなことは気にしないとばかりに、倫音の後ろ姿に向かって、タカシは声を張った。 「外、風強いから。帰りのチャリ漕ぎ、気をつけてね~」 秋光といい、コイツといい、どうしてうちのバイトは空気の読めない奴らばかりなんだ。 白紙のシフト表を前に、涼太は頭を抱え込みたくなった。
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