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<第11章>美穂子の絶望
病院からの帰り道、時刻は夕方になっていた。
仕事は半休を取っていたので、
帰宅ラッシュの時間と重なるかな?と思う。
ぼうっとしながら乗ったJRの
反対側のホームに目をやったときに
見覚えのある顔が見えた。
海野だ。
隣に買い物袋を下げた女性がいるが、
その荷物を彼は受け取ると、
彼女のお腹にさりげなく手をやっていた。
“奥さんだ。”と思う。
確かに派手な美人だった。
鞄にはマタニティマークが付けられており、
二人は嬉しそうに笑っていた。
すると、ふいに美穂子のほうを振り向いた海野が
表情を凍りつかせる。
本当は目をそらしたかったが、
負けるような気がして、
意地でも美穂子の方からは
視線を外さなかった。
二人は一瞬だけ目が合ったが、
向こうから目を伏せた。
美穂子は絶望していた。
下腹部に当てた手が震える。
海野の奥さんの鞄に付けられていた
マタニティマークが恨めしかった。
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