<第14章>彼女の依頼

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<第14章>彼女の依頼

平井はあと一時間ほどで業務が終わるところで 急患に当たった。 “村上美穂子”というカルテを見て 先程青い顔で病院を出て行った彼女を思い出す。 事故に遭ったらしい。 産めない子供を妊娠したのを苦にして、自殺しようとしたのか? 珍しく彼は、患者に同情していた。 腹部を強打しており、出血している。 血の量などを見たとき “これは、お腹の子供はもうダメだな。”と医者の勘で思う。 じっと彼女を見ていると、うっすらと目を開けた。 「先生。」 呼びかけられる。 「どうしました?」 「連絡を取りたい人がいるんです。 入院した事を、その人に伝えてもらえませんか?」 そして彼女は、自分のバッグを指差した。 平井はその中から、携帯を取り出す。 「岡田拓人さんという人に、連絡してもらえませんか? お腹の子供のことで、明日お話しする予定だったんです。」 岡田拓人? どこかで聞いたことがある気がする。 「もし繋がらないときは、 音成動物病院に聞いてみてください。 そこで働いているので。」 音成動物病院と言われた時、 平井は目を見開いた。 “音成まゆこの15歳年下の彼の名だ。” 彼女のお腹の子の相手は、 あの岡田なのか? 平井の中で、怒りの感情が育ってゆく。 それは炎のように、彼の中で燃えていった。 ふと村上美穂子を見ると、 麻酔が効いたらしく、安心した顔で眠っている。 今から処置が始まる。 明日の朝、岡田には連絡しようと平井は思った。
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